根尖性歯周炎は辺縁性歯周炎と同様、細菌もしくは微生物感染症である。難治性根尖性歯周炎の病因として以下の4つが挙げられる。
(1)根管内微生物(Intraradicular microorganisms)
(2)根管外感染(Extraradicular infection)
(3)異物反応 (Foreign body reaction)
(4)歯根囊胞 (True cysts)
Sundqvist G, Figdor D. In Orstavik D, Pitt-Ford TR, editors: Essential Endodontology, London, 1998, Blackwell Science
非外科歯内療法においては、根管外感染や根管外異物の除去や歯根囊胞の治癒は困難であるとされており、病因が根管内細菌でない場合は従来の非外科歯内療法は奏功しない。その場合は外科的歯内療法の出番となる。
Nair PN: New perspectives on radicular cysts: do they heal? Int Endod J 31:155, 1998.
DSJアドバイザリーボードメンバーの嘉村康彦です。患者さまに選択肢として上記2つが提示されました。通常であれば、再根管治療が第一選択となるところではありますが、既に歯内療法専門医より根管治療が行われていたことに加えて、病因を根尖孔外感染、歯根囊胞であると考えていたため、根管再治療は選択肢から除外しました。
X線写真から根尖病巣とおとがい孔が近接していたため、歯根端切除術でなく、意図的再植術を選択しました。
Torabinejad (2015, JOE) のMeta-analysisによると、意図的再植術のSurvival rateは88% (95% CI, 81%–94%)であり、シングルインプラント のSurvival rateは97% (95% CI, 96%–98%)でした。他にも多くの論文でインプラントの成功率が高く、予知性の高いことが報告されています。しかしながら、意図的再植術の予知性も臨床的には比較的高いと言え、歯牙を温存できる可能性が残っており、患者さまが希望するのであれば、選択されるべき処置であると考えます。
また、Kim (JOE, 2011) らによると、歯内外科治療は根管再治療、抜歯後、義歯、ブリッジ、インプラントなどと比較して、費用対効果に優れていると述べられています。患者さまは自身の歯牙を残したいという強い思い、経済的な理由から、意図的再植術を選択しました。
歯牙保存が可能なので、今度はどの治療法が適切なのかを検討します。ここで先ほど説明があったEBDの手法を取ります。ただ我々は科学的文献に踊らされるのではなく、術者の技量、患者の希望を鑑みてどの治療法が良いかを患者さまと共に議論します。
・歯冠をしっかりと把持できる適切なサイズの抜歯冠子を選択しました。意図的再植術の鍵を握るのは、歯根膜の状態です。冠子やヘーベルで歯根膜にダメージを与えないようにすることが重要です。また、術前に矯正牽引を行うことにより、歯根吸収が少なくなるというデータもあります。今回は術前に矯正牽引は行いませんでしたが、冠子にて歯牙を引き上げるようにして時間を掛けて抜歯を行いました。
・マイクロスコープを用いて、歯根の穿孔、クラックや他の損傷がないのを確認しました。
・根尖部歯根表面にバイオフィルムの形成を認めました。
・根尖より4mmの根切断を行い、逆根管形成、バイオセラミックセメントにて逆根管充填を行いました。術中、根を乾燥させないように、また汚染させないように、Hanks balanced salt solution(HBSS)を用いて、洗浄を繰り返し行いました。
・抜歯窩側壁は掻爬せずに、根尖部のみ掻爬を行いました。
・抜歯窩に歯牙を復位し、安定が得られたため、スプリントは行いませんでした。
Kratchman S. Intentional replantation. Dent Clin North Am 1997
Hiltz J, Trope M. Dental Traumatology 1997
今回のケースは、一見単純そうに見える下顎小臼歯の根管治療から始まり、再治療外科に至ったケースです。適切な問診、現病歴から適切な診断、病因論を理解することから、適切な治療計画を立案することが重要であることは言うまでもありません。またEBDはエビデンスだけではなく、患者さまの意思、そして術者の技量も合わせて実践できるものであり、我々はエビデンスという理論を理解し、医療技術を継続して研鑽していく必要があります。
DSJ歯内療法ファンダメンタルコースでは、病因論や生物学的考察を基礎とした、歯内療法学のコンセプトを理解することに重きを置いています。論理的思考の鍛錬をすることにより、臨床のステップがより理にかなったものとなり、予知性が高く、効率的な臨床に繋がると考えます。
DSJアドバイザリーボードメンバー 嘉村康彦