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【DSJ/デンタルスクウェアジャパン】アメリカのドキュメンタリー映画について

皆さまこんにちは。DSJアドバイザリーボードメンバーの嘉村康彦です。ここ最近、アメリカ国内で非常に話題?問題?になっているNetflixのドキュメンタリー映画があります。その名も「Root cause」といいますが、主人公は若い男性で、顔面を殴打され、前歯の根管治療を受けたことから物語は始まり、同前歯が抜去されるまで、諸々の全身疾患に悩むというドキュメンタリー映画です。根管が全身の健康にどのような影響があるかというもの描いているもので、その中で根管治療と心疾患、癌などの明確な関連を指摘しています。

 

歯内療法の歴史の中で、「Focal infection theory」という考え方があります。元々、19世紀の医学論文により提言された理論で、局所、全身感染はある部位の細菌やそれらによる有毒産生物が拡散することにより発生するものであるという考え方です。1925年、Weston Priceらは、車いすを使用する女性が、根管治療歯を抜去した後に関節炎が治癒し、車いすが不要になったと述べています。また抜去した歯はラットの皮下に埋入され、同ラットは10日後に疾患により死亡したと報告しました。これらの結果から象牙細管内に閉じ込められた細菌は根管外へ漏洩し、全身疾患を引き起こすと述べ、当時は根管治療が必要となる歯に対しては、抜歯が強く推し薦められたそうです。1952年、EaslickらはPriceらの研究において、不適当なコントロール群の使用、抜歯時に同歯が感染をした可能性などから、不適切な結論が導かれていると述べ、歯内療法と全身疾患との関連は不明確であると結論づけています。「Focal infection theory」は約100年前に提言され、Easlickだけでなく、現在まで多くの論文で否定されています。ある著名は米国の医師は「Root cause」に対して「癌患者の97%は根管治療を受けている」と賛同のコメントをしています。数字としては事実なのかもしれませんが、「癌患者の多くは水道水を飲んでいる」とか、「コーヒーを朝の飲む」ということと同レベルです。つまり、他の複雑に絡まる要素を度外視して、「癌、心疾患」と「根管治療」を結びつけるのは、適切な解釈でない可能性が非常に高いと考えられます。アメリカ歯内療法学会会長からも、この映画に対する厳しいコメントが発表されています。https://www.theguardian.com/media/2019/feb/27/netflix-root-cause-pulled-root-canals-cancer

 

歯内療法は、感染、臨床的な痛みを取り除き、天然歯を保存するという観点から、口腔健康、全身健康に寄与するために非常に重要な役割があります。我々は巷に溢れる情報をいかに適切に咀嚼して、治療に適用するだけでなく、患者さんに正しい知識を伝搬するのも役割であるということを再認識した今日この頃です。