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【DSJ/デンタルスクウェアジャパン】人工股関節から金属粉

皆さま、おけましておめでとうございます。DSJボードメンバーの土屋です。昨年は、4月の設立記念講演会から始まり、年末のホワイトクロスライブセミナーまで慌ただしく過ぎて行きました。セミナーを通じ、学ぶことが非常に多く、受講された先生方よりもおそらく自分の方が勉強になったのではと感じており、有意義な1年でした。今年は、去年を上回れる様にまた一層精進して行きたいと思います。今年が皆様にとって良い年になりますよう、心からお祈り致します。

 

ところで、去年のクリスマスイブ(12/24)の大分合同新聞の夕刊に『人工股関節から金属粉』についての記事が掲載されました。

 

 

この記事によると、人工股関節(チタン製)は『メタル・オン・メタル』の構造になっているので擦れて磨耗すると、金属粉が発生しそれが生体内に入り込むと周囲の細胞を壊死させる可能性があるということです。実際に、以下の Goodman SB、 Tuan RSらの論文でもその危険性が指摘されています。

 

Goodman SB, et al. Effects of orthopaedicwear particles on osteoprogenitorcells. Biomaterials. 2006
Tuan RS, et al. What are the local and systemic biologic reactions and mediators to wear debris, and what host factors determine or modulate the biologic response to wear particles? J Am AcadOrthopSurg. 2008.この「金属粉」については、歯科ではインプラント治療で起こりえると言われています。

 

2011年の Klotz MWらの論文(Klotz MW, et al. Wear at the titanium-zirconia implant-abutment interface: a pilot study. IntJ Oral MaxillofacImplants. 2011.)によると、インプラントがチタンの場合、ジルコニアバットメントとを使用すると、チタンアバットメントに比べるとインプラントとアバットメント接合部で起こる摩耗が、4〜5倍起こりインプラントが摩耗するとされています。

 

 

この摩耗により生じる金属粉により審美部位で歯肉の着色、また細胞を壊死させることで骨吸収が起こることなどが示唆されています。これが事実であれば、審美性を考えてジルコニアアバットメントを選択したとしても、金属粉の影響で歯肉の着色を引き起こし、かえって審美性を失う結果にもなります。

 

ところが, 2018年12月のSikora CLらの論文によると、Wear and Corrosion Interactions at the Titanium/Zirconia Interface: Dental Implant Application.Sikora CL, Alfaro MF, Yuan JC, Barao VA, Sukotjo C, Mathew MT.J Prosthodont. 2018 Dec;27(9):842-852.

 

ジルコニアとチタンの摩耗実験(球状のジルコニア、チタンとディスク状のチタンを使用)によると、逆にチタンの方が、ジルコニアよりも5倍ほど摩耗さるという研究結果が提示されました。この論文では、チタンインプラントの摩耗度を考えるとチタンインプラントージルコニアアバットメントがベストな組み合わせであるという結論を出しています。

 

 

それでは、これらの相反する結果を持つ論文をどう解釈すれば良いのでしょうか。Klotzの論文とSikoraの論文共にInVitroの研究ですが、その違いは、Klotzの論文は実際のインプラントやアバットメントの形状の試材使用しており、Sikoraの論文では、球とディスクの試材を使用しているところにあります。実際、Sikoraのような多くの摩耗試験の論文で、ジルコニアは、相手材を摩耗させにくいことが報告されています。ジルコニアは高密度で、表面に傷や凹凸が少ない為、特によく研磨させたものでは、相手材を摩耗させない可能性はあります。ただ、インプラントとのような複雑な接合部を有するものを検証する場合は、やはりKlotzの論文のように実際の形状の試材を使用するべきだと思います。また、実際の状態に近い前向きのInVivoの研究が必要ですが、個体差の大きい口腔内条件を揃え、同条件で二種類を比べることが非常に難しいのでin Vivo研究は不可能に近いと思います。(無作為抽出の後ろ向きは可能と思います。)

 

それでは、こういった結論をどう臨床に応用すれば良いでしょうか?チタンアバットメントとジルコニアアバットメントどちらが良いのかは、まだ結論が出ていないと言えますが、このような研究結果がある事、このような論争がある事を知っておくことがまずは重要だと思います。そして、インプラントが商業化されて35年以上たった現在で多く使われてきたチタンアバットメントでの金属粉の問題はそこまで多くは報告されていないことを考えると、現時点では、チタンアバットメンが第一選択ではないかと思います。その上で、ジルコニアアバットメントを使用する必要がある場合は、その危険性(もしかしたらチタンより安全かもしれませんが)を十分理解して使用する必要があります。