治療計画、補綴修復、歯周病(インプラント)、歯内療法のスタディグループはデンタルスクウェアジャパン(DSJ)へ

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【DSJ/デンタルスクウェアジャパン】エンド治療の前に:症例提示

皆さまこんにちは。DSJボードメンバーで米国歯内療法専門医の田中です。今回は他院からご紹介頂いたエンド症例を皆様にご覧頂き、根管治療(How)の話でなく、なぜ(Why)の視点でエンドを考えてみたいと思います。

 

 

 

 

この患者さんは44歳の女性です。左下第二大臼歯の根管充填歯に病変があり、腫脹も存在しています。口腔内で根管治療を受けているのはこの歯のみで、その他の歯は修復物があるもののすべて有髄歯です。一体、この歯はどのような経緯で抜髄になり、なぜ歯質を大きく失うことになってしまったのでしょうか。そして、患者さんの立場で考えれば治療が済んでいるはずなのに、なぜ両方の歯根に病変が生じるほど感染が存在しているのでしょうか。

 

残念ではありますが、日本の歯科医療は「治療」が主体であるにも関わらずその「質」についてあまり問われることがなく、今までは「細かい部分は患者さんには分からないし、説明しても伝わらない」という姿勢があったように思います。この歯は抜髄に至る前に修復物が入っていたそうですが、そのマージンのクオリティやプラークコントロールに対する指導、患者さん本人の意識、といった歯車がどこかでずれて二次カリエスから抜髄に至ったと思われます。また、既存の根管充填が不適切であることは、我々歯科医療従事者から見れば明らかです。

 

この歯を保存するのであれば処置は再根管治療ですが、ではこのまま治療だけすれば良いのでしょうか。今後長期に歯を機能させたいと術者も患者も願うのであれば、術者の治療技術向上はもちろん、患者側の歯科医療に対する意識改革もしなくてはなりません。例えば同じようなことが左上7に生じないよう、「今のところ大丈夫」「いずれだめになるかも」でなく、う蝕と歯周病を積極的に予防するアプローチが不可欠です。患者側の「歯を残したい」「同じように困りたくない」という意識が高まれば、術者の根管治療技術向上の意義がより高まることになるでしょう。

 

医療の基本である「治療」と「予防」に取り組み、患者側の口腔健康の意識改革につなげる。歯内療法を通じて歯の保存の意義や根管治療の大変さを伝える。我々歯科医師がチェアサイドで行うことはまだまだたくさんあるようです。セミナーでは、このような視点でも皆様とディスカッションしたいと思います。

 

田中利典