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【DSJ/デンタルスクウェアジャパン】DSJ歯内療法ファンダメンタルコース第一期終了

皆さまこんにちは。DSJボードメンバーの田中利典です。先月の週末に、DSJエンドコース第3回(5日目、6日目)が行われ、第1期が修了となりました。今回はアメリカテキサス州からもう一人のコースディレクターである嘉村康彦も帰国し、皆様と活発なやりとりをすることができました。ご参加いただいた先生方、誠にありがとうございました。

 

 

講義では、病因論と合わせて根尖病変の治癒メカニズムについても取り上げました。その際、受講された先生より「全身疾患と根尖病変の治癒に何か関連が認められるのか」とご質問をいただきました。

 

例えば糖尿病を患っている方であれば、神経障害と抹消血流障害が合併症として特徴的で、白血球機能異常についても近年報告されています(Wong et al. Nature Med. 2015)。ご承知の通り、歯周病と糖尿病はそれぞれが増悪させる働きを示すわけですが、糖尿病という「免疫反応の異常」をきたす疾患があれば、根尖病変の治癒に影響を受けることは容易に想像できます。

 

最近の報告では、Cabanillas-Balseraらが、糖尿病と根管充填歯の抜歯イベントの関係についてシステマティックレビューおよびメタアナリシスを行っています(Cabanillas-Balserona et al. Int Endod J. 2018)。その結果、糖尿病患者では根管充填歯の抜歯イベントが多かったことを示しました。彼らは、糖尿病は根管治療前の重要な予後因子として捉えるべきと結論づけています。

 

 

他にも、単純に年齢によって治癒のスピードが違うことについても、我々は日常生活を通じて経験的に感じています。ここ最近怪我をしたら治りに随分と時間がかかるようになった、傷跡が残りやすい、といった年齢の変化を痛感する機会や、小さいお子様がいらっしゃる方は、子供だと怪我の一つや二つ、あっという間に消えて無くなってしまう様子に目を見張る機会があるかと思います。

 

一方で、このような疫学的な研究では、サンプルサイズが小さかったり、隠れた交絡因子があったり、と結果を慎重に考察することが必要です。それでも近年ではビッグデータを活用し、さらには遺伝子解析を組み合わせたユニークな報告が出てくるようになりました。

 

Messingらは、200万人に及ぶ患者の医科と歯科の電子カルテデータベースを活用して、循環器系疾患(CVDs: Cardiovascular Disease)(例えば高血圧、リウマチ熱、心雑音、僧帽弁逸脱症、心筋梗塞、など)と根尖性歯周炎(AP: Apical Periodontitis)の関係について考察しています(Messing et al. J Endod. 2019)。また、APのある195症例と、APのない189症例を抽出して、高血圧に強く関係する遺伝子をリアルタイムPCRで検出する症例対照研究も行いました。CVDsは世界において疾患での死因第2位であり、CVDsとAPの疾患メカニズムや慢性炎症の状態は実は非常に類似しています。APが全身にも影響し、CVDsにとって潜在的なリスクファクターになるかを考察することは、昨今の医科歯科連携においても興味深いトピックといえるでしょう。しかし今までの研究報告では、サンプルサイズや地域・人種の違いからなのか、関連がありそう、なさそう、の両方の意見があり、常に論争の的となっていました。

 

Messingらの研究では、根尖病変は高血圧、心筋梗塞、脳血管障害、ペースメーカー、うっ血性心不全、心ブロック、エコノミー症候群、心臓外科手術の既往歴、といった病歴と強い関連性を認めました。さらに、高血圧に特徴的な10種類の遺伝子をAPありとなしの患者で調べたところ、KGNK3という遺伝子に強い関連性が認められました。彼らは、このビッグデータ活用と遺伝子解析から、因果関係というわけではないが、根尖病変は高血圧やその他のCVDsに対して追加的なリスクファクターとして蓄積されるものかもしれない、と結論づけています。

 

 

根管治療というと、つい根尖部のX線透過像に意識が向きがちです。歯内療法学で病因論や治癒論を知ることは、口腔から全身へと視野を広げるきっかけになります。DSJエンドコースでは、木を見て森を見ず、口を診て体を診ず、さらには病を診て人を診ず、にならぬよう、医療の基本も皆様と一緒に考えていきたいと思います。

 

DSJボードメンバー:田中利典