治療計画、補綴修復、歯周病(インプラント)、歯内療法のスタディグループはデンタルスクウェアジャパン(DSJ)へ

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【DSJ/デンタルスクウェアジャパン】エンドにおけるデジタライゼーションの可能性

 

皆さまこんにちは。DSJボードメンバーの田中利典です。前回の土屋先生の投稿では、歯科のデジタル化について未来の補綴治療を示唆するとても興味深いお話が取り上げられ、私も大変勉強になりました。今回は、医療全体を見渡したときの最近のトレンドと、エンド領域におけるデジタル化による可能性を考えてみたいと思います。若干の長文、お付き合い下さい。

 

2、3年前より、医療の世界では「バリューベース・ヘルスケア(VBHC)」という考え方が広まってきており、ボストンコンサルティンググループやアクセンチュアといった大手コンサルティングファームが、ライフサイエンス企業、医療保険組織、政府と協働して新たな医療の価値創造に向けて取り組んでいます。VBHCとは「従来のボリュームでの評価でなく、投資対効果の高い、新たな価値創造に基づく患者主体の医療」のことで、単純に薬剤費や医療材料のコスト削減というアプローチで医療の効率化・最適化を図るのでなく、患者さんが享受できる医療の価値を最大限にすることとされています。そのような医療では、患者データを共有・分析し、リアルタイムで講じるべき手段や提供すべきサービスを構築するコラボレーション体制が不可欠になります。

 

例えば、患者さんの服薬時間や服用状況をモバイルアプリで記録し、リアルワールドデータで治療の継続を見守り、治療の反応を観察する予測アナリティクスが良い例です。薬を処方していても患者側が服用しない、飲み忘れてしまう、では効果が得られないだけでなく、処方や疾患の長期化で医療費もかさみます。昨年秋に米国食品医薬品局(FDA)が大塚製薬のマイクロチップを組み込んだ薬を承認したというニュースがありましたが、企業や組織が医療提供者と協働し、結果的に患者さんの健康にいち早くつなげる土壌が生まれ出しています。また、バイタルデータを時間軸で捉えて疾病予防や健康管理というリスクマネージメントにつなげることで、医療コスト全体を抑えるアプローチがあります。これは我々歯科医療提供者には「予防歯科」という言葉があるためとてもわかりやすいと思います。

 

さて、このVBHCにはエンド領域の場合どのように関われるでしょうか。例えばデジタライゼーションとして、CBCTデータを活用した根管治療支援ソフト(3D Endo Software:デンツプライシロナ社)があります(日本未発売)。これはCBCTデータから最適なアクセスキャビティの外形線、各根管の作業長、注意すべき根管の三次元的湾曲、使用するファイルの順番、を提示してくれるもので、医療の標準化と個別化を同時に提案してくれる診療支援ソフトです。しかしながら、ここまででは単に根管治療の効率化にすぎないかもしれません。

 

 

この診療支援ソフトをVBHCの高みへと押し上げるのであれば、CBCTによる残存歯精査というプロセスを健全歯のうちに組み込んで、天然歯の膨大な解剖学的データや根管治療の難易度と照らし合わせることでリスク評価に落とし込み、個別化された積極的カリエス予防につなげていくアプローチがあるでしょう。根管治療は通常回数がかかり、部位や根管形態によっては治療が難しく、一般的な歯科医療環境では大きな困難を伴うことがあります。そこにエンド専門医が関わる場合もあるわけですが、本来その疾患を予防できるのであればそれに越したことはありません。歯髄炎・根尖性歯周炎を事前に防ぎ、結果的に医療コストを抑えることにつながれば患者利益につながるだけでなく、医療提供者も難易度の高い根管治療・再根管治療に苦慮する機会が減り、また、疾病予防に対する新たな価値創造ができるわけです。根尖性歯周炎の治療と予防という観点で「根管治療が得意になる」のも大事ですが、「そもそも根尖性歯周炎にならずに済む」というリスクマネージメントの方が本来は大いにバリューがあるのです。

 

DSJは多くの企業が協賛して下さっており、我々ボードメンバーはとても心強く思っています。本年の設立記念講演会を皮切りに通年セミナーが始まりますが、単にセミナーする側・受講する側・サポートする側といった立場でなく、三者がVBHCを根底に協調し合い、歯科医療がより良いものになるような機会がDSJから生まれていければと願っております。

 

DSJボードメンバー:田中利典